安売りファッション業界の悪徳
衝撃的だったのは、カンボジア・プノンペンの縫製工場で2014年、賃上げを要求する工員のデモに政府の治安部隊が発砲する場面だった。それにより4人の死者と多くの怪我人が出た。一人の女性はこう訴える。「私たちの血で作ったものを、誰にも着てほしくありません」。そんな服を、品質のわりには安いとの理由で、喜んで買って着ることができるのだろうか? アメリカのサンクスギビングデー翌日のバーゲンセールでは、価格をさらに下げた服やバッグが並ぶ会場に大勢の買い物客が殺到。大きなかごにお買い得品をこれでもかと詰め込む姿も。その姿は楽しげで、楽しみのために必要以上に鳥や動物たちを追い回して殺すハンターたちを思い起こさせる。 代償は、服作りに直接かかわらない人たちにも及ぶ。インドの皮革工場から出た汚染水は、周辺地域の人たちの健康に大きな影響を与えているようだ。皮膚にダメージを負った女性の顔は、まるで破れた大きな顔面マスクを被ったように見えて心が痛む。服作りにはさまざまな有害化合物が必要で、大量に作ればそれだけ大量の有害物質が排出される。服が大量に作られ消費されれば、大量のごみにもなる。燃やせば温室効果ガスも出る。製作過程も含めてファッション・アパレル産業が排出する炭酸ガスの量は、石油産業に次いで第2位なのだという。 この映画では、こうした問題に危機感を持って活動している人たちの発言も紹介している。環境問題にこだわるファッションデザイナー、ステラ・マッカートニーは「巨大で強欲な(ブランド)企業が大きな利益を上げているのに、何百万という(この分野)の労働者たちになぜ適切な支援ができないのでしょうか」と語っている。
ファストファッションと呼ばれるような服が、どのように作られているのか? 経済的に貧しい国での、低賃金の長時間労働、劣悪な労働環境、そして環境汚染……。2013年4月にはバングラデシュで縫製工場の入った8階建てのビルが倒壊して、1100人以上の死者、約3000人がけがをした事故もあった。そうしたことはかなり知っていたつもりだけれど、現実感を伴ったものではなかった。 東京・渋谷のアップリンクで公開中のドキュメンタリー映画「ザ・トゥルー・コスト」(真の代償)は、ファストファッションの服作りの現場が思っていたよりはるかに過酷で代償も大きいことを示している。また、十分に知らないでいたことへの反省という“代償”をも迫る内容だった。 映画では、縫製工場とそこで働く女性たちの生活や思い、工場からの汚染水や農薬による深刻な健康被害、川や海などの汚染による漁業被害の実情を、それとは対照的なファッションショーの華やかな舞台や先進国の服の売り場のにぎわいなどの光景を織り交ぜながら淡々とリポートしていく。 バングラデシュの首都ダッカの縫製工場で働く一児の母シーマは、朝から1日12時間以上働き、つかの間の夜はバラックのような寮で寝るだけ。休みは月1、2回。それでも驚くほどの低賃金だが、そのほとんどを田舎の家族に送金している。子どもに会えるのは年に1、2回しかないという。
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